1|自律神経がブームなのに、どこか“表面的”に感じる理由
ここ数年、どこに行っても
「自律神経を整えよう」
「自律神経が乱れると不調が出る」
と言われるようになった。
通販番組でもSNSでも、YouTubeでも、書店でも。
“自律神経のセルフケア”はまさに時代のブームと言っていい。
でも実は、施術者として毎日体を触ってきた僕には、ちょっと物足りない感覚がある。
なぜかというと、
語られている自律神経はまだ表面的だから。
多くのメディアで扱われるのは、
- 交感神経(アクセル)
- 副交感神経(ブレーキ)
この二つだけ。
でも、僕が現場で見てきた人の身体反応は、そんな単純な二択ではない。
僕自身、自律神経で人生が変わった人間だからこそ、もう少し深い層の話を知ってほしい。
そしてそれを体系化してくれたのが
ポリヴェーガル理論
という視点なんだけど、まだほとんど知られていない。
だからこそ、あえてこのテーマで書いてみたいと思った。
2|自律神経の情報が“2つの状態”から進まない理由
●自律神経は本当は3モードある
一般的に自律神経は
- 交感神経(戦う・動く)
- 副交感神経(休む・緩む)
この二分で語られる。
でも、ポリヴェーガル理論ではさらに深く分かれる。
副交感神経には
- 背側迷走神経
- 腹側迷走神経
というまったく別のモードがある。
これを理解しないと
「休んでいるのに休まらない」
という現象の理由が説明できない。
・布団に入っても眠れない
・休日なのに疲れが抜けない
・緊張していないのに心が沈む
これ、実は“副交感神経だけど癒されていない状態”があるから。
背側迷走神経は
生命を守るための“シャットダウン”モード
だから、落ち着いて見えても回復しているとは限らない。
ここが語られないまま
「副交感神経=リラックス」
と広まっているのが現状。
だから多くの人が
「休めているはずなのに…」
と自分を責めてしまう。
しかし本質的には、
腹側迷走神経まで回復の波が届いてないだけ。
これを知らないまま“自律神経を語る”のは正直もったいない。
3|自律神経が整わない人の共通点
ここ数年、多くの人に施術して感じていることがある。
それは、
自律神経の問題は、努力不足じゃない。
多くの人は本当に必死で頑張っている。
- 早く寝て
- 食事を整えて
- 運動して
- 湯船に浸かり
- ストレッチして
- マインドフルネスもやって
- アロマも焚いて
それでも改善しない。
その原因は、
「方法」ではなく「地図の誤解」。
つまり、
自律神経を2モードの世界で理解していること。
3モードで理解すると視点がガラッと変わる。
●交感神経
生きるための“戦う力”
●背側迷走神経
命を守るための“停止・シャットダウン”
●腹側迷走神経
安心・信頼・回復を司る“社会神経”
「交感神経は悪者」
「緊張はダメ」
という言説もよくあるけど、それも違う。
交感神経も背側迷走神経も、全部必要。
問題は
どこに“固定されているか”。
固定が起こると
- ずっと戦闘モード
- ずっとシャットダウン
- 行ったり来たりできない
つまり
自律神経の“柔軟性”がなくなる。
この柔軟さ——
僕はこれを“波の戻り”と呼んでいる。
4|自律神経は“整える”より“切り替える”が大事
現場でずっと体を触っていて気づいたのは、
自律神経は静態ではなく動態だということ。
つまり
整えて終わり、ではない。
自律神経は本来
- 緊張 → 弛緩
- 交感 → 腹側
- 戦う → 安心
- 動く → 回復
この流れで循環する。
どれが優れているとかではなく、
全部生存のためのモード。
ただし、それが
- 固まる
- 溜まる
- 止まる
と不調につながる。
交感神経は悪くない。
背側迷走神経も必要。
ただし、
腹側迷走神経へ“戻る道”があること。
これこそが自律神経の本質。
そして、ここが語られていない。
5|情報社会が「腹側迷走神経」を弱らせている
ここも現場で感じていること。
今の時代は
- SNSで比較
- 常に外に答えを求める
- 頭の処理が止まらない
- 自分より周りを優先する
これがあまりに当たり前になった。
つまり、
身体感覚(腹側迷走神経)が育ちにくい時代。
情報は増えたけど、
“自分の体の声”を聞く文化は育っていない。
だから自律神経がブームになっているのに
根本解決が進まない。
でも逆に言うと、
今は<気づける時代>でもある。
言語化されたことは広がる。
だから、ポリヴェーガル理論のように
“3モードを前提にした自律神経の理解”は
これからもっと必要になると思っている。
■私からの一言(まとめ)
自律神経の話題は確かに広まってきた。
でもまだまだ「入り口」で語られている感じがある。
- 自律神経は2種類ではなく3モード
- どれも欠かせない生存機能
- 固定ではなく“切り替え”が大事
- 回復は腹側迷走神経で起こる
- 頭だけではなく体で理解する必要がある
自律神経は本来、
“生きる波のリズムそのもの”。
整えて終わりではなく、
使いこなすことで人生は軽くなる。
これがもっと広まれば、
「頑張ってるのに変わらない人」を救えると本気で思っている。
そして——。
僕はそのために、
現場から言葉を拾い続けたい。