はじめに:なぜこのテーマに興味を持ったのか

「心と身体はつながっている」と言いながら、私たちは案外、身体の“配線図”を知らずに生きている──そんな違和感をセラピストとしていつも感じている。

クライアントの身体を触ると、不思議とその人の思考クセや緊張しやすい場面、そして過去の出来事まで浮かび上がることがある。
だけどそれは、スピリチュアルでも特殊能力でもなく、ただシンプルに“神経の動線”がそうさせているだけ。

自律神経は感覚も、感情も、思考も、行動もすべてつないでいる。
でも「交感神経」「腹側迷走神経」「背側迷走神経」などの言葉が有名になってきたわりに、

  • どこから出て
  • どこにつながり
  • どんな指令を出しているのか

という“具体的なルート”はあまり語られない。

だから今回は、あえて身体的な“動線”にフォーカスして書いてみたい。

交感神経はどこからどこまで?

まずはざっくり言うと、

交感神経=戦う・逃げるための緊急モード

でも、その配線は意外と知られていない。

●交感神経は背骨の中にずらっと並んでいる

交感神経は脊髄の胸部~腰部(T1~L2)から出ている。
だから分布としては、身体の中心に沿ってずっと縦に走っている。

この神経が全身の臓器へ枝分かれして、

  • 心臓をドキドキさせ
  • 気管支を広げ呼吸量を増やし
  • 筋肉へ血流を集中させ
  • 胃腸の働きを抑え
  • 皮膚の温度を下げる(血流減少)

というシステムを司っている。

だから、ストレスが続く人は背骨周りがガチガチになる。
セラピー中に、胸椎あたりがカチコチの人を見ると、

「あ、この人は毎日フルスロットルなんだな」

とすぐわかる。

ちなみに、思考のクセにも影響する。

  • 交感神経優位 → 答えは今すぐ出したくなる
  • 正解を探す
  • 負けられない
  • 行動が先行

こういうタイプは大抵、脊柱起立筋群も鉄棒のように硬い。

身体って正直。

腹側迷走神経はどこからどこまで?

ポリヴェーガル理論で一番注目されている神経。
腹側迷走神経は「社会的交流モード」と呼ばれ、

心が開き、人と安心してつながり、落ち着いて判断できる状態

を作る。

●腹側迷走神経は脳幹の「延髄」から出る

迷走神経は脳神経10番(X)で、脳幹の延髄から体内へ伸びている。

そして面白いのは、

その7~8割は「感覚(情報の入力)」として脳へ戻っている

ということ。

つまり迷走神経は、

心 → 身体
身体 → 心

両方向に通信している、巨大な情報ネットワーク。

●どこにつながっているのか

腹側迷走神経は、

  • 心臓
  • 食道
  • 横隔膜
  • 大腸

など、いわゆる胸部~お腹まわりへと分布。

セラピストとして施術していて、横隔膜がカッチカチの人を見ると、

「腹側迷走神経が機能していない=安心モードに入りづらい」

と体感レベルでわかる。

胸が開かない人は、人との距離も開かない。
身体と心理は本当にリンクしている。

背側迷走神経はどこからどこまで?

クライアントの身体に触れていて一番“難しい”のがここ。

背側迷走神経=生命維持のためのシャットダウンモード

いわゆる

  • フリーズ
  • 何も感じない
  • やる気が出ない
  • 思考が止まる
  • 眠りたい
  • 抜け殻感

という状態を生む。

●動線は腹側と同じく「延髄」から

ただし働きが違う。
背側迷走神経は、

  • 消化器
  • 内臓

を強く支配し、危機のときには

「生命を守るために機能停止させる」

という動きをする。

極端な例を言うなら、

  • 動物が捕食される寸前
  • 痛みや逃げ場がない状況

そんな時にスイッチが入る。

だから背側迷走神経が優位な人は、

  • 肩や背中は柔らかいのに力が出ない
  • 呼吸が浅い
  • お腹に冷たさがある
  • 感情を感じにくい

という身体になることが多い。

交感神経はガチガチ、
背側迷走神経はふにゃふにゃ。

これ、触れば一発で違いがわかる。

自律神経の“動線”がわかると何が変わる?

私がこの視点を大事にしているのは、

身体の反応は人格の問題ではなく、配線の問題

だから。

  • イライラしやすい
    → 交感神経がずっとオン
  • 人前が苦手
    → 腹側迷走神経が使われていない
  • 何もできない
    → 背側迷走神経に引きずられている

これだけの話。

性格でも根性でも才能でもない。

配線の問題なら、配線を整えればいい。

そして整える方法は、

  • 呼吸
  • 姿勢
  • 触覚
  • 温度
  • 表情
  • 動作

など、身体からのアプローチで十分。

だから私は、身体から自律神経を読み解き整える仕事をしている。

私からの一言(まとめ)

自律神経は“見えないもの”だと思われがちだけど、
実はちゃんと「動線=配線」がある。

  • 交感神経:胸椎~腰椎から全身へ
  • 腹側迷走神経:延髄から胸・腹へ、人とつながるモード
  • 背側迷走神経:延髄から内臓へ、生命維持のための停止モード

どれも良い悪いじゃなく、

その人が生き抜くために最適化された反応

にすぎない。

だから身体の反応を責める必要はない。

あなたの身体は、いつだってあなたを守るために働いている。

その“配線図”を知り、
自分の身体の言葉を聞けるようになれば、
生き方はもっとラクになる。

今日も丁寧に、身体と対話していこう。