はじめに:なぜこのテーマに興味を持ったのか
セラピストとして身体に触れていると、毎回感じることがある。
「この人、ずっと交感神経優位のまま戻れてないな」
筋肉は張り、呼吸は浅く、目はギラッとしたまま。
施術が終われば一時的に軽くなるけれど、結局また同じ緊張に戻る。
もちろん、揉めばゆるむ。
ストレッチをかければ可動域も広がる。
だけど、「戻れない人」はどれだけ施術をしても、
副交感神経=特に腹側迷走神経のモードを“自分で起動できない”
この問題が解決しないまま。
そしてそれは、
- 根性がない
- メンタルが弱い
- 努力不足
なんかじゃなく、
ただ単に神経の回路(配線)がそうなっているだけ。
だから最近よく思う。
セラピストがどれだけ良い施術をしても、クライアント側が「戻れる感覚」を持っていなければ触れているだけで終わるのでは?
そういう人に無理に強い刺激を入れたら、むしろ交感神経優位を助長する。
この矛盾を整理して書いてみたい。
交感神経優位とは「戦闘体制に固定された状態」
交感神経優位が悪いわけではない。
本来、
- 行動
-集中
-判断
-戦う/逃げる
このエネルギーを生む大事なモード。
問題は、
本来は一時的に入るべきモードから、戻れなくなってしまっている
というところ。
身体的にはこんな状態になりやすい。
- 呼吸が浅い
- 肩から背中がガチガチ
- 腰部から胸椎にかけて常に緊張
- 消化が落ちている
- 睡眠が浅い
- 起きた瞬間から戦闘モード
そして本人はこれを「普通」と思っている。
わたしも日々クライアントに触れながら感じる。
戻れない人は、そもそも“休む神経の感覚を知らない”
だから、
「リラックスして」
「脱力して」
「ふうっと息を吐いて」
と言われても、それを体験できる神経回路がない。
施術だけで戻れる人と、戻れない人
じゃあ、施術が無意味かというと、もちろんそんなことはない。
施術は、
- 身体の安全感
- 触覚刺激
- 呼吸の誘導
- 筋膜の弾性回復
など、迷走神経を働かせるきっかけにもなる。
でも、差が出る。
●“戻れる人”
- 身体に触れられた瞬間に神経が切り替わる
- 呼吸が深くなる
- 意識が「今ここ」に戻る
- 身体が受け取れる
こういう人は施術効果が長持ちする。
●“戻れない人”
- 最後まで戦闘モード
- 筋肉はゆるむが神経は戻っていない
- 脳はまだ闘っている
- 無意識に体が「警戒」している
だから翌日にはいつもの状態。
「効いていない」んじゃなく、
そもそも副交感神経の回路に入る方法がわかっていない
ただそれだけ。
セラピストが無理に緩めると逆効果になる?
ここが今日一番伝えたいこと。
交感神経優位のまま、強刺激を入れると身体は“もっと戦闘モード”になる
つまり、
- 痛み
- 強すぎる圧
- 早い刺激
- カウントを急ぐストレッチ
こういう施術は、
「セラピストが緩めているつもりでも、
身体は“危険に備えて固めている”」
という現象が起こる。
クライアントの神経が
“今は安全”
と認識して初めて、
- 筋肉が緩む
-呼吸が解ける
-神経が切り替わる
という順番。
逆に言えば、
セラピストがどれだけ技術を積んでも、クライアントの神経が“安全=腹側迷走神経”に入れないと上書きはできない
これは本当に現場で実感する。
だから必要なのは “身体が戻れる経験”
結局、ポイントはここ。
- 施術を受けて緩む
- 自分でもその感覚がわかる
- 日常でも再現できる
ここまでいって初めて、
「自律神経が変わった」
と言える。
つまり、
セラピストが治すのではなく
クライアントが“戻れる身体”を思い出す
そのサポート。
だから私は、
身体に触れるだけではなく、
- 呼吸
- 立ち方
- 目線
- 触覚
- 声
- 体幹の力の抜き方
- 内臓の動き
こういう細かいアプローチもセットで見る。
神経は“正しい姿勢”よりも、
「安全と感じられる姿勢」
を優先する生き物だから。
そして戻れる経験さえつかめれば、
- 週1回の施術
- 月1回の施術
- 5分のセルフケア
- 1回の深呼吸
どれでも十分になっていく。
私からの一言(まとめ)
交感神経優位の人に、施術だけで変化を作れるのか?
答えは、
「戻れる神経のルートがある人には効果が出る
戻れない人には、施術だけでは足りない」
ということ。
そしてそれは、
- 気合い
- 根性
- 思い込み
- メンタルの強さ
とは関係ない。
ただ単に、
神経が帰り道を忘れているだけ。
だから責める必要はない。
必要なのは、
- 身体が安全を感じ
- 呼吸が解け
- 腹側迷走神経が起動し
- そこへ戻るルートが“自分でもわかる”
この経験。
セラピストは、
その回路を“思い出す”ための伴走者。
今日も、身体と神経に敬意を持って触れていきたい。